研究業績集(詳細)



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研究業績集

第42回 公募研究(基礎研究施設)

1.心筋前駆細胞シート移植を用いた心筋再生治療におけるVCAM-1/VLA-4シグナルの重要性

  • 松浦勝久 1), 2)  、清水達也 1)  、萩原誠久 2)  、小室一成 3)  、岡野光夫 1)
    • 1) 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所
    • 2) 東京女子医科大学 循環器内科
    • 3) 大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学
  • ≪抄録≫
  • 心筋前駆細胞としてマウスSca-1陽性細胞をシート化し、心筋梗塞マウスに移植することで、心機能の改善効果が得られることが明らかとなってきた。移植した細胞の一部は心筋細胞への分化を示すものの、その頻度からは心機能改善を説明するものではない。近年細胞移植の効果としてパラクライン効果が指摘されており、今回は心筋前駆細胞移植におけるパラクライン効果について検討した。培養上清を用いた網羅的解析により、可溶性VCAM-1の発現が、心筋前駆細胞で有意に高いことが明らかとなった。この可溶性VCAM-1は、in vitroで血管新生、心筋細胞保護効果、さらに心筋前駆細胞自身の遊走にも寄与していることが明らかとなり、心筋細胞保護に関しては、VCAM-1の受容体であるα4β1インテグリン(VLA-4)の下流に存在するAkt、Erk、P38MAPKの活性化が統合的に作用した結果と考えられた。心筋前駆細胞シートを移植後にVLA-4に対する抗体を投与すると、シート移植による心機能改善効果、線維化抑制効果、血管新生効果が消失した。以上から、心筋前駆細胞シート移植による心機能改善効果においては、その移植細胞の分泌するVCAM-1そしてその受容体であるVLA-4を介したシグナルが重要と考えられる。

2.イオンビーム照射により血小板・細胞接着を制御したタンパク質複合化カバードステントの研究

  • 鈴木嘉昭、比留間 瞳、氏家玲奈、田中俊行、氏家 弘 * 、堀 智勝 * 、 杉田洋一 **
    • 理化学研究所 人工臓器材料研究チーム
    • *東京女子医科大学 脳神経外科
    • **ベイラー医科大学
  • ≪抄録≫
  • タイプIコラーゲンに He イオンビームを加速エネルギー150 keVで1× 1014 ions/c㎡ 照射した表面は血小板粘着抑制と同時に細胞接着性を有する。現在までの我々の実験はウシ由来のコラーゲンを用いていたため、狂牛病との関係を問題視されてきた。今回、遺伝子改変により生産される均質で純度の高いリコンビナントタイプⅠコラーゲンを用いて、イオンビーム照射を行い血小板粘着抑制、細胞接着性を同時に有する表面の形成が可能であるか検証した。またワイドネック型脳動脈瘤治療用ステントおよびデリバリーシステムの試作を行った。
  • He イオンビームを加速エネルギー150 keV,照射量1x 1014 ions/c㎡照射したリコンビナントコラーゲンは血小板粘着抑制を示し、同時に細胞接着性を有することが明らかとなった。リコンビナントコラーゲンを用いることによって動物由来コラーゲンのウィルスや感染性病原体の混入や重篤な炎症反応やアレルギー反応を引き起こすリスクを回避できると考えられた。
  • 内径2および2.5mm、長さ20mm、Ni-Ti製のウォール型ステントおよびデリバリーシステム(Stent loader, Loader core, Guide wire)の試作を行った。この試作したステント表面にリコンビナントコラーゲンをコートし、イオンビーム照射を行うことで抗凝固療法なしで使用可能なステントを目指す。

3.肺動脈と動脈管における蛍光標識二次元電気泳動法を用いた
 酸素感受性蛋白質の発現変動解析

  • 中西敏雄、羽山恵美子、松岡瑠美子、勝部康弘 *
    • 東京女子医科大学循環器小児科
    • *日本医科大学小児科
  • ≪抄録≫
  • 動脈管は、子宮内で胎児が生育するために必要な血管である。胎児循環においては胎盤により酸素化された血液は静脈管を経由して下大静脈に流れ、卵円孔を通過して冠動脈や脳循環に供給される。酸素飽和度の低い血液は右房に還り右室、主肺動脈、動脈管、下行大動脈を経て胎盤に向かう。動脈管は生後の血中酸素分圧の上昇に反応して収縮・閉鎖し、やがて消失する。一方、肺動脈は胎生期低酸素状態で収縮しており、酸素分圧が上昇すると拡張する。これらの血管の酸素に対する反応の違いの機序はいまだ明らかでない。新生児の動脈管が閉じないと心疾患の原因になることから、動脈管の開閉制御の機構を研究することの意味は大きい。
  • 酸素の増減によって発現量や翻訳後修飾が変動するタンパク質は肺動脈や動脈管の酸素感受性に寄与する可能性が高い。本研究の目的は、微量タンパク質の発現変動を検出可能にする蛍光色素を用いたプロテオミクスの手法により、動脈管および肺動脈の酸素感受性に関わるタンパク質を蛍光標識二次元電気泳動法およびMALDI-TOF質量分析計を併用したプロテオミクスの手法を用いて探索し同定することである。

第6回 榊原記念研究助成

1.アポリプロテインCⅢ(アポCⅢ)のインスリン抵抗性惹起作用の解明とその制御

  • 川上明夫 1) 、Frank M Sacks 2) 、東 博 3) 、下門顕太郎 4) 、吉田雅幸 5)
    • 1) 東京医科歯科大学医学部 附属病院老年病内科
    • 2) ハーバード公衆衛生大学院
    • 3) 東京医科歯科大学大学生体材料工学研究所
    • 4) 東京医科歯科大学大学院血流制御内科学
    • 5) 東京医科歯科大学生命倫理研究センター
  • ≪抄録≫
  • 背景:アポリポ蛋白(アポCIII)はTGリッチVLDLとLDLの構成因子であり、高TG血症とインスリン抵抗性を来すメタボリックシンドロームにおいて上昇する。我々は以前、アポCIIIがPKCβIIを介し血管内皮細胞を直接活性化することを報告した。血管内皮細胞のインスリンシグナルはPKCβIIにより阻害されるため、アポCIIIがPKCβIIを介し血管内皮細胞のインスリン抵抗性を来すという仮説を立て検討した。
  • 方法:および結果:アポCIIIは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)においてインスリンによるPI3K/Aktの活性化、IRS-1のチロシンリン酸化を抑制した。またその結果eNOSの活性化,培養液中のNO放出を減らした。これはアポCIIIがPKCβII活性化を活性化し、IRS-1のセリンリン酸化を起こすことが原因であった。 またアポCIIIはC57BL/6Jマウスの大動脈のNO依存性血管弛緩反応を抑制した。この作用は、PKCβII活性化によるIRS-1/PI3K/Akt/eNOS経路の阻害によることが分かった。
  • 結論:アポCIIIは高脂血症とインスリン抵抗性をリンクし血管内皮細胞機能不全を引き起こすことが分かった。

2.ホメオチック遺伝子の発現制御による脂肪分化機構の解明
 ―マイクロRNAによる発現調節と病態への関与―

  • 中神啓徳 * 、森雅樹 * 、金田安史 * 、森下竜一 **
  •     *大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学 
    • **同臨床遺伝子治療学
  • ≪抄録≫
  • ホメオチック遺伝子は体節に沿って組織・器官を規定する転写因子であり、positional memoryを司る分子である。近年、このホメオチック遺伝子の体性幹細胞における役割として、脂肪幹細胞に着目して検討を行った。ヒト脂肪前駆細胞ではHoxC8が高発現しており、脂肪前駆細胞の分化に伴いHoxC8の発現が低下することが分かった。この発現調節機序として、マイクロRNA、miR196aが寄与していることが分かった。すなわち脂肪分化に伴いmiR196aの発現が上昇しHoxC8の発現を低下させることが分かった。さらにこのmiR196aを脂肪特異的に過剰発現させたマウスを作成したところ、高脂肪食負荷下で野生型マウスと比して著明な体重の減少が認められた。また、糖負荷試験における高血糖・高インスリン血症の是正、インスリン抵抗性の改善を認めた。組織を観察すると脂肪特異的miR-196a過剰発現マウスでは白色脂肪細胞の小型化に加えて、一部UCP1で染色される褐色脂肪組織が存在することが分かった。また、このマウスではエネルギー消費量(呼吸商)が増加しており、直腸温も高値であった。本研究成果から、白色脂肪細胞および褐色脂肪細胞の分化に関連するホメオチック遺伝子とその発現を調整するマイクロRNA、miR196aの存在が明らかとなった。

3.血管傷害性動脈硬化病変におけるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の
 潜在的役割の解明と治療への応用

  • 佐原 真 1) 、佐田政隆 2) 、永井良三 1)
    • 1) 東京大学大学院医学系研究科 循環器内科
    • 2) 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 循環器内科学
  • ≪抄録≫
  • アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)はレニン・アンジオテンシン系の内因性抑制因子として注目されているが、血管病・動脈硬化症におけるACE2の機能・役割についてはよくわかっていない。われわれはACE2欠損マウスの大腿動脈内にワイヤーを挿入して傷害を与えたところ、野生型マウスと比して著明に大きな動脈硬化病変が形成されることを確認した。血管病変組織におけるアンジオテンシンII(Ang-II)濃度はACE2欠損マウスで有意に高く、またVCAM-1などの血管炎症メディエーターの発現やJNKシグナル経路の活性化はいずれもACE2欠損マウスでより顕著であった。一方、Ang-IIのI型受容体拮抗薬(オルメサルタン)をワイヤー傷害マウスに投与すると、ACE2欠損マウスにおいても血圧とは無関係に血管病変形成は著明に抑制された。次にTHP-1細胞(ヒト単球細胞)にAng-IIを負荷するとMMP9やMCP-1のmRNA発現が亢進するが、リコンビナント・ヒトACE2蛋白は用量依存性にそれらの発現を抑制した。さらに野生型・ACE2欠損マウス由来の大動脈血管平滑筋細胞にそれぞれAng-IIを負荷すると、ACE2欠損マウス由来の同細胞においてより顕著なJNKシグナル経路の活性化が生じ、同時に認められるVCAM-1、MMP9の発現亢進はリコンビナント・ヒトACE2蛋白やJNK阻害物質のSP600125で著明に抑制された。 以上より、ACE2遺伝子の欠損はワイヤー傷害後の血管壁局所でのAng-II濃度を高め、JNKシグナル経路を介して炎症反応を誘発し、傷害血管において著明な動脈硬化病変を形成させることがわかった。ACE2は血管病・動脈硬化症に対して保護的に作用していると考えられる。