
研究業績集 (詳細)
第41回 公募研究(基礎研究施設)
1.心筋梗塞モデルに対する積層化細胞シート移植手技の最適化
- 常徳華、清水達也、原口裕次、大和雅之、岡野光夫
- 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所
- ≪抄録≫
- 重症心不全に対する新たな治療方法として、細胞シート工学の技術を用いて作製した細胞シートを心筋梗塞部位へ移植することにより、心機能の有意の回復を報告してきた。細胞シート移植による心不全の治療を行う際、閉胸時間は細胞シートが移植後心臓に接合するまでの時間に依存する。昨年我々は、細胞シートを移植する際に、細胞外マトリックス(matrix)の存在する下面を正常な心臓に移植することで30分以内に良好な接着が得られたことを報告したが、今回は、梗塞部と健常部における細胞シートの接着性の相違の有無を確認し、臨床応用に最適な積層化シートの移植条件を検討した。実験動物としてミニブタを用い、骨髄由来間葉系幹細胞から重層化細胞シートを作製した。細胞シート中の細胞はお互いに結合し合い、三次元的組織を構築していることを確認した。この細胞シートをミニブタ冠動脈の前下行枝を結紮して作成した急性心筋梗塞モデルの心筋梗塞部位に移植し、移植後30分、60分において、細胞シートと心臓の接合するタイムコースを調べた。細胞シートの下面を心筋梗塞部位に接着させて移植した場合、健常部における接着性との相違は無く、移植後30分において堅固な接合が確認された。
2.遺伝子を導入したc-kit陽性成体幹細胞の心筋内移植による心筋症治療法の開発
- 宮本真嘉*、佐藤志樹*、松村剛毅*、川口奈々子**、松岡瑠美子**、山崎健二*
- * 東京女子医科大学 心臓血管外科
- ** 東京女子医科大学 国際統合医科学インスティチュート
- ≪抄録≫
- 近年、幹細胞研究が目覚しく進歩するのに伴い心臓源性の心筋前駆細胞に関する報告が散見されている。臨床応用の実現のためこれらを成体ラットから採取し検討を行った。成体ラット心臓由来のc-Kit陽性細胞を分離・培養することにより、200種類以上の心臓由来幹細胞様細胞株を樹立した結果、心筋細胞、脂肪細胞、骨格筋細胞など多彩な細胞系に分化する事を確認した。また、一部の細胞には培養細胞の寿命を延ばす効果があり、その因子としてIGF-1が関与していることが確認された。さらに、これらの細胞を効果的に移植する方法として、コラーゲンスキャッフォールドを用いた三次元培養法を検討し、従来の培養法より増殖に優れていることが確認できた。
- 以上より、成体心臓由来の心臓源性幹細胞は、心不全に対する新たな治療戦略開発の有用な一手段と成りえる可能性を示唆した。
3.遺伝子を導入した骨髄幹細胞の心筋内移植による心筋症治療法の開発
- 鈴木嘉昭、氏家玲奈、田中俊行、氏家 弘*、堀 智勝*、 杉田洋一**
- 理化学研究所 人工臓器材料研究チーム
- * 東京女子医科大学 脳神経外科
- ** ベイラー医科大学
- ≪抄録≫
- 市販の冠動脈ステントにコラーゲンをコーティングして、イオンビーム照射することにより抗血栓性、細胞接着性を付与したステントをブタ冠動脈に留置した。
- 6例中4例は新生内膜は軽度、中程度であったが2例は重度の内膜の増殖が見られた。6例の新生内膜比率は最も良いもので27%であるが、平均すると 46.7%であった。血管障害スコアーは平均で1.31であり、冠動脈の内膜弾性板は障害されているが、中膜は圧迫されているが障害は軽度であった。冠動脈ステントとして現時点では満足行くものは60%であり、今後はコーティング、イオン照射の均一性などの完成度を高めるとともに、グラフト化を行った実験を試みる予定である。
4.動脈管の酸素感受性の機序に関する基礎的研究 - 膜電位依存性カリウムチャネル複合体 -
- 中西敏雄、羽山恵美子、松岡瑠美子、勝部康弘
- 東京女子医科大学 循環器小児科
- ≪抄録≫
- 動脈管は胎性期の低酸素状態で開き、生後酸素に反応して収縮する。一方、肺動脈は胎生期低酸素状態で収縮しており、生後血中酸素分圧が上昇すると拡張する。酸素感受性を示す膜電位依存性Kv1.5およびアクセサリーチャネルのKvβ1.2は、新生仔の動脈管、肺動脈に顕著に発現している。動脈管が酸素を感受して収縮する機構のシグナル伝達系を解明するために、Kv1.5複合体の免疫沈降法による抽出およびBlue Native PAGE(BN-PAGE)による分離を試みた。BN-PAGEにより分離された複合体は、Kv1.5はおよそ630 kDa、Kvβ1.2はおよそ530 kDa、Kv1.5/Kvβ1.2はおよそ800 kDaを示した。Kv1.5が糖鎖付加されている可能性を考慮しても、Kv複合体が8量体を形成、又は本複合体に結合する細胞内タンパク質の存在が示唆された。
第5回 榊原記念研究助成
1.血管石灰化における骨形成因子BMP-2とNotchシグナルの役割
- 田中亨、清水岳久、土井 宏、磯 達也、倉林正彦
- 群馬大学大学院医学系研究科 臓器病態内科学
- ≪抄録≫
- 高血圧や糖尿病、腎疾患などにおける動脈硬化、血管石灰化は合併症の発症や予後に重要である。動脈硬化病巣の形成過程には、骨分化誘導因子Msx2などが発現し、血管平滑筋細胞(VSMC)が骨芽細胞様の形質を獲得する現象が認められる。本研究で我々は、ヒト動脈硬化プラークに、Notchシグナルの発現を認め、Msx2も同部位に発現することを発見した。NotchシグナルはMsx2の発現を増加させ、VSMCの骨様形質変換を促進した。さらに、 BMP-2との共刺激ではMsx2発現と骨様形質変換は相乗的に亢進した。これらのことから、Notch-Msx2経路によるVSMCの骨様形質変換も動脈硬化の発症に重要であり、BMP-2の存在下では動脈硬化、血管石灰化は強力に進行すると考えられる。
2.拡張型心筋症、不整脈に関与する転写抑制因子NRSFに結合する蛋白質の同定およびその機能の解析
- 村上政男、桑原宏一郎
- 京都大学大学院医学研究科 内分泌代謝内科
- ≪抄録≫
- NRSFは転写の抑制因子であり、NRSEと呼ばれるDNA配列に特異的に結合して標的遺伝子の転写を抑制している。NRSFは神経分化や癌化、心臓の恒常性維持等の様々な生命現象に関与していることがわかっている。我々はこれまでにNRSFが多くの心臓特異的胎児型遺伝子の発現を制御していることを報告してきた。NRSFのドミナントネガティブ変異体を心臓特異的に過剰発現させたマウスは、心臓特異的胎児型遺伝子の再活性化が起こり心機能の異常をきたして突然死することがわかっており、NRSFが心臓の恒常性維持に重要な働きをしていることが示唆されている。しかしながら、NRSFの活性を制御する分子メカニズムやシグナル伝達系についてはよくわかっていないのが現状である。本研究では、NRSFの機能を制御する因子を同定するため、酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行い、NRSF結合因子としてZfp90を同定した。NRSFとZfp90は核内で細胞内局在が一致し、NRSF のZn-fingerドメインとZfp90のKRABドメインを含むN末端部分とが特異的に相互作用していることがわかった。また、BNPのプロモーター中のNRSEを用いたレポーターを作製し、NRSFの転写の抑制活性を評価したところ、NRSFの転写抑制活性がZfp90により阻害されることがわかった。また、分子メカニズムとしては、Zfp90がNRSFのDNA結合活性を阻害することで、NRSFの機能が抑制されていることが明らかとなった。さらに、Zfp90の発現は心筋梗塞や鬱血性心不全により優位に上昇することが明らかとなった。これらのことから、Zfp90はNRSFの抑制因子として機能し、心機能の低下に伴うリモデリングに関与している可能性が示唆された。
3.心不全における心筋萎縮の機序と転写因子Foxo1における転写後調節との関わり
- 前嶋康浩*,**、佐渡島 純一**、磯部光章*
- * 東京医科歯科大学医学部附属病院 循環器内科
- ** ニュージャージー医科大学 細胞生物学教室 心臓血管研究所
- ≪抄録≫
- 我々は心筋における転写因子Foxo1の役割についてin vitroおよびin vivoの実験を通して解析した。まず、Doxorubicin(DOX)によって誘導された培養心筋細胞の萎縮にはFoxo1の活性化が関与しており、その経路には酸化ストレスが一部関与していることを示した。次に心臓特異的Foxo1トランスジェニックマウスを作成し、その表現型を検討したところ、著明な心重量の低下・心筋の萎縮ならびに左心室の拡張障害を認めた。さらに、心筋の細胞死と肥大の抑制に関与するセリンスレオニンキナーゼであるMst1と Foxo1の関わりについて検討を行ったところ、Mst1はFoxo1をリン酸化し、Foxo1の核内移行を促していることを見出した。以上より、心筋におけるFoxo1は心筋サイズの負の制御因子であり、酸化ストレスなどの刺激を受けてFoxo1は活性化され、心筋障害に関与している可能性が高いことを示した。
