財団法人 日本心臓血圧振興会

研究業績集

<第40回 公募研究(基礎研究施設)>

1.動脈管の酸素感受性の機序に関する基礎的研究- 活性酸素種による翻訳後修飾 -
中西敏雄、羽山恵美子、孫芳、松岡瑠美子、勝部康弘
東京女子医科大学 循環器小児科
≪抄録≫

動脈管は生後酸素に反応して収縮閉鎖し、肺動脈は生後拡張する。出生後の動脈管の閉鎖と肺動脈の拡張の機序は、血中の酸素濃度の上昇が関与している。酸素濃度の変化は、細胞内のレドックス状態を変化させる。活性酸素種が、動脈管や肺動脈の収縮や拡張を調節している可能性がある。低濃度または高濃度酸素処理した動脈管および肺動脈におけるグルタチオン化およびニトロチロシン化を、免疫染色法により検討した。
高濃度酸素処理した動脈管は収縮を示した。抗グルタチオン抗体による染色は両血管において外膜より中膜で高かった。抗ニトロチロシン抗体を用いた場合、動脈管の内腔に近い中膜に特徴的な免疫染色像を認めた。高酸素の処理より低酸素処理した動脈管の染色がやや濃いのは、胎児環境で産生するROS濃度が動脈管ではより高いためであろう。生後の動脈管の収縮には一酸化窒素の血管拡張作用に逆らう作用が働いている可能性が考えられた。

2.イオンビーム照射により血小板・細胞接着を制御したタンパク質複合化カバードステントの研究


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鈴木嘉昭、氏家玲奈、戸井田 浩、氏家 弘*、堀 智勝*、 杉田洋一**
理化学研究所 先端技術開発支援センター
東京女子医科大学 脳神経外科
ベイラー医科大学
≪抄録≫

タイプIコラーゲンにHe+イオンビームを加速エネルギー150 keVで1×1014 ions/cm2 照射した表面は血小板粘着抑制と同時に細胞接着性を有する。この表面を冠動脈用ステントおよびカバードステント表面に導入し動物実験にて評価した。Neointimal Stenosis の形成を比較するためにブタ冠動脈に市販のステントおよびコラーゲンコート後He+イオン照射した同ステントを、抗凝固療法を施して1ヶ月留置した結果、両者で明確な差は見られずほぼ同等であった。市販のステントとの比較のため、抗凝固療法を施した系で行った実験でNeointimal Stenosisが同程度であり、イオン照射ステントは抗凝固療法を施さない系では閉塞しない性質を有するため、この点で優位性が見られると考えられた。
Ti-Ni製ステント(内径 4 mm、長さ25 mm)とePTFE人工血管を組み合わせたカバードステント、Ti-Niステントにセグメント化ポリウレタンをコーティングしたカバードステントを作成し、内面をコラーゲンコートし、イオンビーム照射し、イヌ頸動脈に留置した結果(n=5)、全例閉塞した。今回作成したカバードステントの柔軟性などの完成度が低く、かつデリバリーセットとのミスマッチによる血管内移動時の著しい内膜損傷による閉塞と考えられ、さらなる改良が必要と思われた。

3.遺伝子を導入した骨髄幹細胞の心筋内移植による心筋症治療法の開発
宮本真嘉ac、松村剛毅ac、市原有起a、川口奈奈子c、八木寿人c、松岡瑠美子bc、黒澤博身a
a東京女子医科大学 心臓血管外科
b東京女子医科大学 循環器小児
c東京女子医科大学 国際統合医科学インスティチュート
≪抄録≫

心臓に幹細胞が存在することが示唆され、心不全に対して、幹細胞を利用した治療法が注目されている。臨床応用実現のために、まずin vitroにおけて心臓由来幹細胞の特徴、既存の心筋細胞への影響について検討した。成体ラットの心臓よりc-kit抗体を用いて、幹細胞を単離したところ同細胞は心臓中の全小細胞中に約0.06%存在した。自己複製能があり、球状を形成した。分化誘導により、心筋、脂肪、骨格筋細胞への分化を認めた。幹細胞と成体心筋細胞が共存することで、成体心筋細胞は一ヶ月以上、自律拍動を認めELISAにて検討したところ、IGF-1の高い発現を培養液中に認めた。成体の心臓に幹/前駆細胞が存在し、多分化能を有していたが、その存在率はきわめて少なかった。幹細胞を加えると、既存の心筋細胞に延命効果が観察され、IGF-1が特異的に関与している可能性が示唆された。
成体心臓由来幹細胞移植は、心不全に対して新たな治療法に成り得る。しかし、適切な細胞選択が必要で、そのために性質決定が必要である。

4.細胞シートの心臓への移植手技の最適化についての検討
常 徳華1) 清水 達也1) 原口 裕次1) 坂口勝久2) 梅津 光生2) 岡野 光夫1)
1)東京女子医科大学 先端生命医科学研究所
2)早稲田大学大学院 先端生命医科学研究所
≪抄録≫

虚血性心疾患に対する新たな治療方法として、細胞シート工学の技術を用いて作成した細胞シートを心筋梗塞部位へ移植することにより、心機能を改善できることを報告してきた。細胞シート移植による心不全の治療を行う際、閉胸時間は細胞シートが移植後心臓に接合するまでの時間に依存する。細胞シートには、培養中に温度応答性培養皿に接着し細胞外マトリックスを持つ下面と、培養液にさらされていた上面があり、これら両表面において、移植時の心臓への接合性が異なる可能性が存在する。そこで本研究では、細胞シートの上面、または下面の違いにより、移植後細胞シートが心臓に接合するまでの時間が異なるかについて検討をおこなった。実験動物としてミニブタを用い、骨髄由来間葉系幹細胞から重層化細胞シートを作製した。細胞シート中の細胞はお互いに結合し合い、三次元的組織を構築していることを確認した。この細胞シートをミニブタ正常心臓の左室に移植し、移植後15分、30分、60分において、細胞シートと心臓の接合を調べた。細胞シートの下面を心臓に接着させて移植した場合、移植後15分においては細胞シートと心臓の接合は認められなかったが、移植後30分においては堅固な接合が確認された。一方、細胞シートの上面を心臓に接着させて移植した場合、移植後30分においては細胞シートと心臓の接合は認められなかったが、移植後60分においては接合が確認された。すなわち、細胞シートの下面の方が上面よりも心臓への接合性が高く、移植後30分で心臓に接合することを明らかになった。

<第4回 榊原記念研究助成>

1.管内皮アポトーシスを制御する新規遺伝子の単離および機能解析
池田宏二 松原弘明
京都府立医科大学 循環器内科
≪抄録≫

私達は血管内皮機能を制御する遺伝子のスクリーニングをシグナルシークエンストラップ法により行った。その結果、血管内皮細胞に高い発現を示す新規遺伝子の単離に成功した(以下、クローン57と呼ぶ)。血管内皮細胞中のクローン57をノックダウンするとアポトーシスが特異的に抑制された。この作用は内皮細胞中の抗アポトーシス分子であるcIAP-1、cIAP-2の発現上昇によって引き起こされると考えられた。yeast two hybrid法によるスクリーニングの結果、クローン57は20Sプロテアソームの・7サブユニットと結合することが判明した。さらにcIAP-1、cIAP-2は血管内皮細胞中でプロテアソーム依存性に分解されていることが明らかとなり、その経路にクローン57がプロテアソームの・7サブユニットとの結合を介して重要な役割を果たしていると考えられた。またクローン57の発現をノックダウンするとMatrigel中のin vivo血管新生が著明に亢進することも見出した。クローン57の機能抑制は血管内皮アポトーシス抑制による新しい血管新生増強療法として有望であると考えられた。

2.心筋前駆細胞シート移植による心筋梗塞後心機能改善効果分子機序の解明


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松浦勝久、本田淳、永井敏雄*、清水達也**、岡野光夫**、萩原誠久、小室一成*、笠貫宏
東京女子医科大学 循環器内科学
千葉大学大学院医学研究院 循環病態医科学
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所
≪抄録≫

心筋前駆細胞は、心臓再生医療において大変注目されるところである。今回我々は、温度応答性培養皿による細胞シート工学的手法を用いて、マウス心筋前駆細胞シートを作成し、心筋梗塞モデルマウスへの移植における、心機能改善効果及びその機序についての検討を行った。野生型マウスの左前下行枝を結紮した後、次の3群(非移植群、心筋前駆細胞シート群(Sca-1)、脂肪間葉系細胞シート移植群)に分けて、単層の細胞シートを梗塞巣に移植した。Sca-1陽性細胞シート移植群では、移植3週目以降、非移植群、脂肪間葉系細胞シート移植群に比して、LVDd、LVDsの拡大抑制、FSの改善効果を認めた。また、移植4週目の梗塞境界領域において、Sca-1陽性細胞シート移植群で有意に血管数の増加を認めた。共焦点レーザー顕微鏡を用いた検討では、移植4週目、多くのSca-1細胞が梗塞領域に生着し、その約3割程度の細胞が、心筋細胞への分化及び血管様構造を各々呈するなど、移植細胞自身の各種細胞への分化も確認されたが、脂肪間葉系細胞は、その生着を認めなかった。以上より、心臓由来心筋前駆細胞を用いた細胞シート移植により、梗塞後心機能障害の改善が認められ、心筋前駆細胞は、心筋再生医療の有用な細胞ソースと考えられる。

3.原発性肺高血圧症の成因とBMPシグナル


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大塚文男 中村一文*
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学
≪抄録≫

1997年に原発性肺高血圧症の家系におけるlinkage analysisによって染色体2q31-33部位での異常が報告されたことを皮切りに、その分子病態の把握が急速に進歩した。2000年に遺伝子検索によりこの本態が骨形成蛋白(bone morphogenetic protein: BMP) II型受容体(BMPRII)遺伝子BMPR2の異常であることが特定された。BMPR2遺伝子変異は家族性の原発性肺高血圧症の約50%に認められ、また散発例においても26%に認められる。しかしこの遺伝子異常の保因による肺高血圧症の発症率は20%程度とされ、その成因には他の遺伝因子・環境因子も関与する。BMPRIIの受容体変異によって肺血管構成細胞にどのような影響が生じているのか?という点が最大の疑問である。

4.12-lipoxygenaseは心不全の発症、進展に重要な役割を担っている
東口治弘、香山洋介、南野 徹、坂本昌也、高橋秀尚、小室一成
千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学
≪抄録≫

我々はDahl食塩感受性ラットを用いたこれまでの実験で、不全心で12-lipoxygenase (12-LO)が増加することを明らかにしている。アラキドン酸カスケードの一つの酵素である12-LOは、これまで動脈硬化、糖尿病や神経細胞死に関与するとの報告はあるが、心臓における役割は明らかではない。そこで今回我々は、12-LOの心不全における役割を明らかにすることとした。方法・結果:不全心における12-LOの増加の意味を明らかにするため、まず心臓特異的に12-LOを過剰発現するマウスを作成した。このマウスでは、加齢とともに心収縮力が低下し、野生型マウスと比較し心筋線維化率が増加した。次に心筋梗塞モデルを用いて、虚血心における12-LOの役割を検討した。心筋梗塞後、12-LOとその代謝産物である12-HETEの発現は増加した。心筋梗塞後の心収縮力の低下や左室内腔の拡大は、野生型マウスと比較し12-LOノックアウトマウスでは抑制された。培養心筋細胞でも、虚血により12-LO mRNAおよび12-HETEが増加した。さらに12-HETEは濃度依存的に心筋細胞アポトーシスを増加させた。結論:12-LOは心不全の発症進展に関与すると考えられた。

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